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暗黙知を形式知化する方法|ベテランの技を動画で残し、技能伝承・多能工化につなげる

暗黙知を形式知化するには動画手順書が最短路。ベテランのカン・コツを映像で残しDiveで技能伝承・多能工化につなげる方法を解説。

「あの人にしかできない」——製造現場でこの言葉が出るとき、必ずといっていいほど後ろには「退職したら誰もできなくなる」という不安がついてきます。ベテランの技術は長年の経験で培われた暗黙知です。言葉でも紙でも残せない。教えようとしても「なんとなく」で終わる。後輩がいくら隣で見ていても、その感覚は移らない。

この記事では、暗黙知を形式知化する原理とその最短路を説明します。そのうえで、動画手順書が技能伝承・多能工化とどうつながるかを、現場の実感に即した形で解説します。

 

ベテランの技を映像で残し、現場で使われる手順書に変える。動画手順書システム「Dive」

 

 

なぜ暗黙知は言葉・紙で残らないのか

暗黙知とは、経験を重ねるうちに身体や感覚に刷り込まれた知識のことです。締め付けトルクの「いい感じ」、加工面のわずかなムラを見分ける目、材料が割れそうな直前に感じる手応え——これらは実際に身体を使い、失敗と修正を繰り返す中でしか身につきません。

こうした知識を「形式知」(文書・数値・言語として伝えられる知識)に変換しようとすると、どこかで詰まります。理由は構造的なものです。

言語化しようとしても「なんとなく」になる

ベテランに「どうやって判断しているの?」と聞くと、多くの場合「経験かなあ」「感覚で」という答えが返ってきます。これは怠けているわけではありません。身体知は意識の下に埋め込まれており、自分でも「なぜそうするか」を明示的に説明しにくい構造になっています。言語化しようとすると、その努力自体が暗黙知の一部を切り落とします。

文章・マニュアルは「手順」は書けても「勘所」は書けない

文章形式のマニュアルは、手順の順序を整理するには適しています。しかし「どれくらいの力で」「どのタイミングで」「何を見ながら」という判断の核心部分を文字で正確に表現しようとすると、途端に限界が来ます。「適宜」「必要に応じて」「丁寧に」といった曖昧な言葉に頼るしかなくなり、後継者はそれを読んでも具体的な行動に落とせません。

口頭伝承は属人化を固定する

結局のところ、多くの現場では「わからなければ○○さんに聞け」という解決策に落ち着きます。これは短期的には機能しますが、長期的には属人化を固定するだけです。聞かれるベテランは自分の作業を止めて教え続け、後輩は先輩なしでは進めない状態が続きます。ベテランが異動・退職すると、その知識は消えます。

 

暗黙知を形式知化する原理——動画が「最短路」である理由

知識経営の領域では、野中郁次郎氏らが提唱したSECIモデルが広く知られています。このモデルでは、暗黙知を形式知に変換するプロセスを「表出化(Externalization)」と呼びます。ベテランが持つカン・コツを言語・図・数値として取り出し、他者が参照できる形にする工程です。

伝統的な表出化の手段は、ヒアリング・観察・文書化でした。熟練技術者の傍らに記録者がつき、動作を書き起こし、本人に確認してもらうプロセスです。時間とコストがかかるうえ、完成した文書が「現場で読まれない」という壁に改めてぶつかります。

動画は「言語化を介さずに」記録する

動画は、このボトルネックを迂回します。手の動き・タイミング・力加減・視線の向きを、言葉に変換せずにそのまま記録できます。ベテランが意識していない動作も映像には収まっており、後継者がそれを見れば「そういうことか」と理解できる場面が生まれます。言語化の工程を省いて、身体知の一部を直接記録するというのが、動画が形式知化の最短路である理由です。

ステップ分割が「使われる形式知」を生む

ただし、長い動画を一本撮影するだけでは形式知化は完成しません。重要なのは、動画をステップ単位に分割し、各ステップに「なぜそうするか」の補足を加えることです。作業者が現場で「この工程だけ確認したい」と思ったとき、10分の動画を最初から再生していては使いません。1ステップ30秒で直接飛べる構造にして初めて、形式知が現場で引かれるようになります。

この構造が整ったとき、ベテランの暗黙知は「見て盗む」しかなかったものから、「後継者が自分で確認して再現できるもの」に変わります。これが技能伝承の基盤です。

 

技能継承が「うまくいっていない」現場の実態

暗黙知の形式知化が重要と言いながら、実際にうまくできている現場はどれほどあるでしょうか。

労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査シリーズNo.194「ものづくり産業における技能継承の現状と課題」※1によると、製造業の54.7%が技能継承に何らかの問題を抱えていると回答しています(産業全体の35.4%を大きく上回る水準)。また、将来の技能継承に「不安がある」「やや不安がある」と答えた企業は約80%にのぼります。

一方で、「技能継承がうまくいっている」「ややうまくいっている」と答えた企業は合わせて45%程度にとどまります。過半数の製造業現場で、技能継承の課題が未解決のまま残っています。

この状況に自社調査のデータを重ねると、課題の構造がより鮮明になります。製造業で動画を使った作業手順の実態を調べた調査※2では、動画を導入した現場でも87%が「動画を見ても結局、先輩や同僚に聞くことがある」と回答しています。映像化しただけでは暗黙知の属人化は解消されない——この数字はそれを端的に示しています。

「撮影して動画にする」と「使われる形式知にする」のあいだには、まだ設計の工夫が必要です。

 

動画で暗黙知を形式知化する具体的な進め方

原理を理解したうえで、実際の現場でどう進めるかを説明します。

ステップ1: ベテランの「いつもの作業」を撮影する

出発点は撮影です。大事なのは、ベテランが意識的に「デモをする」のではなく、普段通りの作業を撮ることです。デモ用に丁寧すぎる動作になると、普段無意識にやっている判断ポイントが消えてしまいます。スマートフォン一台で十分です。撮影者はベテランの手元・部品の向き・操作対象が映るよう意識します。

ステップ2: 「なぜそこでそうするか」をその場で聞く

撮影した動画をベテランと一緒に見ながら、「ここはなぜこうしているの?」を口頭で確認します。この会話が、無意識の判断を言語化するプロセスです。すべてが明快に言語化できなくても構いません。「なんとなく感じる」でも、「このケースのときだけ」でも、それがコメントとして残れば後継者への情報になります。

ステップ3: ステップ単位に分割し、コツを付け加える

動画全体を「1ステップ=1つの判断または操作」の単位に分割します。各ステップに先ほど聞いた補足(コツ・注意点・判断基準)を文字や音声で付け加えます。この段階で「形式知の骨格」が完成します。ベテランの言語化と動画の視覚情報を組み合わせることで、どちらか一方だけでは伝わらなかった内容が後継者に届くようになります。

ステップ4: 現場でスマートフォンから引ける形にする

最後のステップは「使える場所に置く」ことです。どれだけ丁寧に作った手順書でも、作業中に取り出せなければ使われません。QRコードを現場に貼り、スマートフォンやタブレットで当該ステップに直接飛べる構造にすることで、「詰まった瞬間に2秒で開ける」環境ができます。この状態になって初めて、形式知化が技能伝承の道具として機能します。

(作業手順書の具体的な作り方はこちら: 作業手順書の作り方——現場で使われるわかりやすい手順書を動画でつくる方法

 

形式知化は技能伝承・多能工化の起点になる

ベテランの暗黙知が動画手順書として形式知化されると、その先にいくつかの展開が生まれます。

技能伝承の「断絶リスク」を下げる

ベテランが退職・異動しても、その動きが手順書として残ります。後継者は「誰かに教えてもらえる機会」を待たずに学べます。特に製造現場では、ベテランの技術が属人化したまま引退を迎えるケースが多いですが、動画手順書として残しておくと、技術は組織の資産として引き継がれます

(ベテランと後輩の動作を映像で比較する取り組みはこちら: ベテランと新人の動作を動画で比べる——差異から学ぶ技能伝承の設計

多能工化の「教育コスト」を下げる

複数の工程・ポジションを担える「多能工」を育てるには、各工程のノウハウを体系的に教える必要があります。暗黙知が動画手順書として形式知化されていれば、教育の仕組みが整い、特定のベテランに教育が依存しない体制がつくれます。ローテーションのたびに一から口頭で説明するのではなく、手順書を渡すだけで最低限の知識移転が完結します。

(多能工化の進め方はこちら: 多能工化の進め方——製造現場でスキルマップと手順書を組み合わせる方法

品質のばらつきを構造的に減らす

「誰に聞くかで答えが変わる」状態は、教える側の個人差が品質に直結することを意味します。形式知化された動画手順書が基準になれば、同じ動作・同じ判断軸で教育が行われます。ベテランAとベテランBで言うことが違う、という現場でよく起きる混乱が起きにくくなります。

 

Diveでの形式知化の進め方

Diveは動画手順書の作成・配布・閲覧状況の計測を一貫して行うクラウドサービスです。暗黙知の形式知化という文脈では、次の流れを支援します。

動画から手順書を自動生成する: スマートフォンで撮影した動画をアップロードすると、生成AIが映像を解析してステップ単位の手順書の下書きを自動で作成します。ベテランの言語化負荷を最小化し、撮影からステップ化の工程を大幅に短縮します。

コツ・注意点を各ステップに付け加える: 自動生成された下書きに、「なぜそうするか」の補足を各ステップに追記します。テキスト・画像・動画クリップを組み合わせて、言葉にしにくい判断ポイントを補完します。

QRコードで現場に配布する: 完成した手順書はQRコードを印刷して現場に貼るだけで配布完了です。作業者はスマートフォンやタブレットで該当ステップに直接飛べます。

閲覧状況を計測して改善する: どのステップが何回閲覧されているかを計測できます。よく参照されているステップはコツの記述が不足しているシグナルとして解釈でき、手順書の継続的な改善につながります。

作業分析の機能では、動画の各場面を要素単位で分解し、ベテランと後継者の動作を比較することも可能です。どの工程に差があるかを映像で確認しながら、形式知化の優先度を絞り込む際に活用できます。

 

まとめ

  • 暗黙知は長年の経験で身体に刷り込まれた知識で、言葉・紙では残せない。言語化しようとすると「なんとなく」になり、後継者が再現できない
  • 動画は手の動き・タイミング・力加減を言語化を介さずに記録できる。暗黙知を形式知化する最短路として機能する
  • ただし長い動画を一本撮るだけでは不十分。ステップ単位に分割し、「なぜそうするか」の補足を加え、現場で引ける形にすることで初めて使われる形式知になる
  • JILPT調査では製造業の54.7%が技能継承に問題を抱え、約80%が将来に不安を持つ。自社調査でも動画導入後も87%が「結局先輩に聞く」と回答。撮影だけでは属人化は解消されない
  • 形式知化が進むと、ベテランの退職リスク低減・多能工化の教育コスト削減・品質のばらつき改善という三つの効果につながる
  • DiveではAIが動画から手順書の下書きを自動生成し、QRコード配布から閲覧計測まで一貫して進められる

 

ベテランの技を映像で残し、現場で使われる手順書に変える。動画手順書システム「Dive」

 


参考文献
※1 労働政策研究・研修機構(JILPT)「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査結果」調査シリーズNo.194(2020年)
※2 エピソテック株式会社「製造業における作業手順の動画活用に関する実態調査」(2026年)

 

よくある質問(FAQ)

暗黙知と形式知の違いは何ですか?

暗黙知は言葉や文字で表現しにくい経験・感覚・身体的な知識で、熟練者が長年の実践で身につけたカン・コツが代表例です。形式知は文書・マニュアル・数値など言語化・記録化された知識を指します。野中郁次郎氏らのSECIモデルでは、暗黙知を形式知に変換するプロセスを「表出化」と呼び、組織の知識創造の核とされています。

暗黙知を形式知化するにはどうすれば良いですか?

最も実践的な方法は、ベテランが実際に作業している動画を撮影し、各ステップに「なぜそうするか」のコツを付け加えることです。動画はカン・コツ・タイミング・力加減を言語化せずにそのまま記録できるため、暗黙知の形式知化に適した媒体です。撮影した動画をステップ単位に分割し、現場で引けるデジタル手順書にすることで、後継者が先輩に聞かずに再現できる環境をつくれます。

動画で技能伝承はできますか?

動画は技能伝承の有力な手段ですが、長い動画を作るだけでは不十分です。JILPT「ものづくり産業における技能継承の現状と課題」(2020)では製造業の54.7%が技能継承に何らかの問題を抱えており、映像を取り入れても体系的に活用されていないケースが多いことが示されています。動画をステップ単位に分解し、現場作業中にスマートフォンですぐ参照できる形にすることで、「見せっぱなし」でなく「使われる技能伝承ツール」になります。

暗黙知の形式知化を妨げる原因は何ですか?

主な原因は三つです。第一に、ベテラン自身が「なぜそうするか」を言語化しにくいこと(身体知であるため)。第二に、言語化しようとすると「なんとなく」で終わり、後継者が再現できないこと。第三に、たとえ文書にしても「現場で使いにくい形式」では参照されないことです。動画は言語化の手間を最小化しつつ、手の動き・タイミング・力加減を記録できるため、この三つの障壁を同時に下げる手段として有効です。

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