「手順書を作って貼り出してあります」——そのひと言で義務を果たした気になっていませんか。
2025年6月、改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策に新たな法的義務が加わりました。事業者には「重篤化防止措置の実施手順を作成し、関係作業者に周知する」ことが求められています。
しかし、実際に現場担当者が直面するのは法令の解釈ではなく、「手順を作っても、全員に確実に伝わっているか確認できない」という実務の壁です。貼り紙が見られているか、配布した資料を読んでいるか——確認手段がなければ、「周知した」という事実を担保できません。
本記事では、義務の内容を正確に押さえたうえで、「実施手順の作成と現場全員への周知を実務的にどう担保するか」を、動画手順書という切り口から解説します。
実施手順をQRで現場掲示し、「誰が見たか」まで記録できる動画手順書システム「Dive」
2025年6月、職場の熱中症対策は何が義務になったのか
令和7年(2025年)6月1日、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」(厚生労働省令第57号)が施行されました。改正の目的は、熱中症のおそれがある労働者を早期に発見し、重篤化を防ぐための体制を、事業場ごとにあらかじめ整えることです※1。
対象となる作業
すべての職場が対象ではありません。以下の両方の条件を満たす作業が対象です。
- 暑熱環境の条件:湿球黒球温度(WBGT)が28℃以上、または気温が31℃以上の場所での作業
- 作業時間の条件:継続して1時間以上、または1日当たり4時間を超えることが見込まれる作業
製造業や建設業の屋内・屋外を問わず、夏季の現場作業の多くがこの条件に当てはまります。令和6年の集計では、職場における熱中症による死傷者(休業4日以上)は1,257人、死亡者は31人に上り、建設業と製造業で全体の約4割を占めています※2。
事業者に課される3つの義務
改正安衛則(第612条の2)により、対象となる作業を行う事業者には以下が義務付けられています。
1. 報告体制の整備と周知
熱中症の自覚症状がある者、またはおそれがある者を発見した者が速やかに報告できる体制(連絡先・担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知する。
2. 重篤化防止措置の実施手順の作成と周知
作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察・処置の手配、緊急連絡網および搬送先医療機関への連絡先を含む「実施手順」を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に周知する。
3. 関係者への周知
上記1・2の内容を、掲示、メール、文書配布、朝礼等の複数手段を組み合わせて関係作業者全員に伝達する。
罰則
改正安衛則に基づく措置を講じなかった場合、労働安全衛生法第119条に基づき、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります※1。
つまずくのは「実施手順の作成」と「現場への周知」
3つの義務の中で、実務担当者が最もコストをかけるべきは「2. 重篤化防止措置の実施手順の作成と周知」です。なぜなら、この義務は「定めた」だけでなく「現場の作業者全員が理解している状態」まで求めているからです。
実施手順の作成そのものは、様式を準備し、対応フローを書き込めば一定の形になります。問題は「周知」です。
掲示板に貼り出しただけでは、「貼った」という事実は残りますが、「誰が見たか」は残りません。書面を配布した場合も同様です。朝礼で口頭説明しても、その場に全員が揃っていなければ、後から加入した作業者や異動してきた担当者には伝わりません。
熱中症の症状は急速に悪化することがあり、対応の初動が数分単位で予後を左右します。「手順書があること」と「現場の作業者が手順を知っていて、緊急時に即座に動けること」は別の話です。しかも重大事故が起きた場合、「周知した」という証跡の有無が、事業者の過失の認定に直結します。
法律が求めているのは、形式的な「周知した」ではなく、実際に作業者の手元に届いている状態です。
「周知したつもり」が機能しない——現場の実態
この問題は、熱中症対応手順に限った話ではありません。現場での手順書・マニュアルの活用に関して、自社調査(エピソテック「製造業における作業手順の動画活用に関する実態調査」2026年、製造業就業者対象)では、動画マニュアルを導入している職場でも87%が「結局先輩に聞いてしまう」と回答しており、63%が「動画を流して終わり、使われ続けない」という実態があることがわかりました※3。
なぜ使われないのか。理由は単純で、「必要な瞬間に、必要な情報を手元で即座に引けない」からです。どこにあるかわからない、探すのに時間がかかる、詳細が別の資料に分散している——その手間が積み重なると、作業者は資料を見るよりも先輩に聞く選択をします。
熱中症対応手順も同じ構造です。「どこかに貼ってある」という状態と、「緊急時に30秒以内に現場でその手順を参照できる」状態は、まったく異なります。義務を形式的に満たすだけでなく、緊急時に本当に機能する状態にすることが、法の趣旨に沿った対応です。
義務を実務で満たす進め方
実施手順の作成と現場周知を実効性のあるかたちで進めるには、以下のステップが現実的です。
ステップ1:実施手順を「使える形」で整理する
条文が求める実施手順の要素は5つです。
- 熱中症を疑ったときの作業からの離脱手順
- 身体冷却の具体的な方法(冷却場所・冷却材の保管場所)
- 医師への診察・処置の依頼手順
- 緊急連絡網(だれに、どの順番で連絡するか)
- 搬送先医療機関の連絡先と搬送方法
これらをA4の文書でまとめても構いません。ただし、実際に機能させるには「現場で迷わずに動ける粒度」まで具体化することが重要です。「冷却する」ではなく「更衣室横の冷蔵庫にアイスパックがある」「首・脇の下・鼠径部に当てる」という記述レベルです。動画で示せばさらに伝わりやすく、緊急時のパニック状態でも理解しやすくなります。
ステップ2:QRコードで「現場に貼る」
整理した手順書をデジタル化し、作業現場の入口・休憩室・作業台の近く——作業者の目線に入る場所にQRコードを掲示します。QRを読み込めば、その場で手順の全内容を確認できる状態にします。
これにより、「どこに手順書があるか」を都度探す手間がなくなります。作業者は自分のスマートフォンで2秒で開けます。緊急時に「確認しようとしたが見つからなかった」という事態を防ぎます。
ステップ3:「誰がいつ開いたか」を記録して周知を担保する
ここが義務対応の核心です。QRから手順書を閲覧した際に、誰がいつ開いたかの記録が残る仕組みがあれば、「周知した」という証跡を客観的に持てます。閲覧実績を管理画面で確認できれば、「まだ見ていない作業者」に個別で声をかける対応も可能です。
これは、パートタイマーや派遣社員、途中から加入した作業者に対しても有効です。「いつ、誰が、どの手順書を見たか」が記録として残ることは、万が一の事故時に事業者が適切な措置を取っていたことを示す材料になります。
ステップ4:緊急連絡網を同じ場所に集約する
実施手順と緊急連絡網は別々の場所に貼るのではなく、同じ手順書の中に集約します。「1. 離脱 → 2. 冷却 → 3. 担当者に連絡(連絡先: ○○ 内線XXX)→ 4. 救急搬送先(△△病院 電話番号)」というフローが1つの手順書に収まっていれば、緊急時に複数の資料を探し回る手間がなくなります。
作業手順書の作り方についての解説記事もあわせてご覧ください。
Diveで実施手順を動画手順書にする
動画手順書システム「Dive」は、上記のステップ1〜4を一連の仕組みとして実現します。
実施手順を撮影またはテキストで入力してステップに分割すると、各ステップに独立したQRコードとURLが発行されます。このQRコードを現場に貼り出すだけで、作業者はスマートフォンやタブレットからその場で手順を参照できます。通信が不安定な現場でも、ブラウザのみで動作します(専用アプリのインストール不要)。
閲覧状況は管理画面から確認でき、「誰がいつ手順書を開いたか」を記録として残せます。これが「周知の証跡」になります。内容を更新した場合も、QRコードを再発行せずに最新の手順が反映されるため、改訂のたびに紙を刷り直す手間がありません。
緊急連絡網・搬送先の情報も同じ手順書内にまとめられるため、「手順書を開いたら対応フローが全部わかる」状態を作れます。
手順書の電子化とQR配布については別記事でも詳しく解説しています。
実施手順をQRで現場掲示し、「誰が見たか」まで記録できる動画手順書システム「Dive」
まとめ
- 2025年6月1日施行の改正安衛則(厚生労働省令第57号)により、WBGT28℃以上または気温31℃以上の環境で1時間以上・1日4時間超の作業を行う事業者は、①報告体制の整備・周知、②重篤化防止措置の実施手順の作成・周知が義務になった。違反は労安法第119条の罰則対象
- 義務対応でつまずくのは「手順を作ること」ではなく、「現場全員に確実に伝わっていること」の担保。紙の掲示だけでは「誰が見たか」が残らない
- 動画手順書への調査では、87%が「結局先輩に聞く」、63%が「使われ続けない」という実態があり、「周知したつもり」が機能しない構造は熱中症手順でも同じリスクがある※3
- 実務的な進め方は、手順を現場で「2秒で開ける」かたちに整える(QR掲示)→閲覧記録で周知を客観的に担保する、の順
- 緊急連絡網・搬送先を同じ手順書に集約することで、緊急時に複数資料を探し回る手間をなくせる
- Diveは動画手順書のQR配布・閲覧状況の可視化・内容の即時更新をひとつの仕組みで実現し、「周知の証跡」を残せる
よくある質問(FAQ)
職場の熱中症対策の義務化はいつからですか?
2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則(令和7年厚生労働省令第57号)により義務が課されています。施行日以降、対象作業を行う事業者は体制整備・手順作成・関係者への周知を行う必要があります。詳細は厚生労働省の職場における熱中症予防情報ポータル(https://neccyusho.mhlw.go.jp/)に掲載されています。
改正安衛則で事業者は具体的に何をすればいいですか?
WBGT28℃以上または気温31℃以上の環境で継続1時間以上または1日4時間超の作業が対象です。事業者は①熱中症を疑う者を報告する体制を整備・周知する、②作業離脱・身体冷却・医師処置・緊急搬送先を含む実施手順を作成・周知する、の2点が求められます。義務を怠ると労安法第119条(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)の対象になる可能性があります。
実施手順の「現場への周知」はどうやって担保すればいいですか?
掲示・メール・朝礼など複数手段の組み合わせが求められます。実務的には「誰がいつ手順書を確認したか」を記録として残せる仕組みを持つことが重要です。QRコードで手順書を現場に掲示し、閲覧状況を記録する動画手順書の活用が、周知の実効性と証跡の両立に有効です。
動画手順書と紙の手順書、義務対応にはどちらが適していますか?
紙の手順書でも義務の要件そのものは満たせます。ただし「誰がいつ見たか」の確認や、内容変更後の即時反映が難しいという実務上の課題があります。動画手順書はQRコードで現場掲示でき、閲覧記録を残せるため、周知の実効性と証跡の両立に向いています。
参考文献
※1 厚生労働省「職場における熱中症予防情報(STOP!熱中症 クールワークキャンペーン)」(2025)
※2 厚生労働省「令和6年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)」(2025)
※3 エピソテック株式会社「製造業における作業手順の動画活用に関する実態調査」(2026)