Dive機能紹介

ヒヤリハットのネタ切れはなぜ起きる?借り物の事例集をやめて自分の現場から拾う方法【2026年版】

ヒヤリハットのネタ切れは事例の在庫不足ではなく「拾い方」に原因があります。他社事例の転記に頼らず、自分の現場の作業映像から危険を拾い直す方法を解説。動画手順書システムDiveでの実践例つき。

「今月のヒヤリハット、誰か出してください」——安全担当が毎月同じ声をかけ、同じ数人が、去年と似たような紙を出す。月が変わるたびに事例集をめくって、使えそうなものを探す。ヒヤリハット活動が「今月の提出物を埋める作業」になっている現場は、決して珍しくありません。

 

この状態は「ネタ切れ」と呼ばれます。しかし本当に切れているのは、事例の在庫ではありません。本記事では、ネタ切れが起きる構造を整理したうえで、借り物の事例集に頼らず自分の現場から危険を拾い直す方法を解説します。

 

自分の現場の映像から、危ない箇所を拾う。動画手順書システム「Dive」

 

ネタ切れの正体は「事例の在庫不足」ではない

まず、事実を確認します。ヒヤリハットの事例は、探せばいくらでもあります。

 

厚生労働省が運営する「職場のあんぜんサイト」には、ヒヤリ・ハット事例が全451件掲載されています※1。墜落・転落79件、転倒55件、はさまれ・巻き込まれ50件、飛来・落下49件——といった具合に災害の種類ごとに分類され、イラスト付きで、無料で読めます。民間の事例集やテンプレート集を加えれば、参照できる事例はさらに増えます。

 

つまり、借りてくる事例は一件も尽きていません。それでも現場から「ネタがない」という声が上がるのはなぜか。答えは、現場が探しているものが事例ではないからです。探しているのは「今月提出する紙」です。

 

そして、ここに本当の詰まりがあります。他社の事例を転記しても、自分の職場の危険は一つも減りません。提出物は埋まり、活動実績は残り、しかし現場の状態は先月と同じ。この空回りが続くと、参加者は「意味がない」と感じ、ますます形だけの提出になっていきます。ネタ切れは、活動が形骸化していく過程で最初に現れる症状にすぎません。

 

原理——拾い方が「人の記憶と申告」に依存している

ではなぜ、自分の職場の危険が出てこないのか。仕組みの側に原因があります。

 

ヒヤリハットは定義上、災害に至らなかった出来事です。誰も怪我をしていないので、記録が残りません。設備も止まっていないので、ログにも残りません。残っているのは、その場にいた人の記憶だけです。だからヒヤリハット活動は、必然的に「当事者が思い出して、自分から申告する」という形をとります。

 

この「記憶と申告」に依存した拾い方には、構造的な穴が3つあります。

 

穴1:覚えていないものは出せない

ヒヤリとした瞬間そのものは強く記憶に残りますが、それは本当に肝を冷やしたときに限られます。少し危なかった程度の場面は、その日の終わりには忘れています。月末に「今月何かありましたか」と聞かれて思い出せるのは、実際に起きたことのごく一部です。

 

穴2:本人が危ないと思わなかったものは、絶対に出てこない

これが最も大きな穴です。同じ作業を毎日繰り返せば、その動作は当たり前になります。当たり前になった動作は、「危なかったこと」として意識に上りません。回転部に手を伸ばす動き、脚立の上段に片足を乗せる癖、重いものを腰から持ち上げる姿勢——本人にとっては日常の一部なので、申告のしようがないのです。

 

皮肉なことに、この穴はベテランほど大きくなります。経験を積むほど作業は自動化され、危険は風景に溶けていきます。「ヒヤリハットが1件も出てこない工程」は、安全な工程ではなく、誰も危険と感じなくなった工程である可能性があります。

 

穴3:申告のコストが、作業が終わったあとに来る

報告書を書くのは、たいてい作業を終えたあとです。疲れている時間帯に、思い出しながら紙を埋める。この順序である限り、報告は「余計な仕事」として扱われ続けます。

 

3つを合わせると、結論は一つです。ネタが無いのではなく、拾う網が「人の記憶」しかない。網を替えない限り、集まる量も質も上がりません。事例集を配るのは、網を替えずに獲物のカタログを配っているようなものです。

 

データ——事例は積み上がっているのに、被災は減っていない

網を替えないまま事例だけを配り続けた結果を、統計で確認します。

 

厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況(確定値)※2によれば、労働災害による死亡者数は700人で、前年比46人・6.2%減となり過去最少を記録しました。重篤な災害を減らす取り組みは、着実に効いています。

 

一方で、休業4日以上の死傷者数は135,333人。前年比385人・0.3%減で、実質的には横ばいです。数字を並べると、次のことが読み取れます。

 

  • 公開されている事例は451件あり、各社の事例集・テンプレート集も年々増えている
  • それでも、休業を要する被災は年間13万人台から動いていない
  • つまり「事例を配ること」と「その現場の危険が減ること」は別の話である

 

同じ構造は、安全活動以外でも観測できます。当社が製造業の就業者を対象に行った実態調査※3では、動画マニュアルを導入している職場でも63%が「流して終わりで、使われ続けていない」と回答しています。配布した事実と、現場で機能している事実は、別々に確認しなければ分かりません。

 

網を替える——自分の現場の作業映像から拾い直す

記憶に頼らずに危険を拾う方法は、実はすでに全員の手元にあります。作業を撮ることです。

 

映像が記憶と決定的に違うのは、当事者が「危なかった」と思わなかった瞬間まで残っている点です。申告の閾値を通りません。前述の穴2をふさげるのは、いまのところこの方法だけです。しかも撮影はスマートフォン1台で済み、特別な設備も要りません。

 

進め方(月1本から始められます)

1. 撮る工程を選ぶ
優先度が高いのは次の3つです。新人が入った工程、久しぶりに行う段取り替え、そしてヒヤリハットが1件も出ていない工程。3つ目は前述のとおり、安全だからではなく誰も危険と感じていないだけ、という可能性があります。

 

2. 5〜10分、手元が映るように撮る
上手に撮る必要はありません。手元と作業対象がフレームに入っていれば十分です。全体を引きで撮るより、作業者の視点に近い位置のほうが危険が写ります。

 

3. 危なく見えた瞬間を、時刻つきで洗い出す
見返して「ここは危ない」と思った箇所を、映像の時刻とセットで書き出します。ポイントは撮られた本人以外も一緒に見ることです。本人にとって当たり前の動作は、他の人には引っかかります。

 

4. その場面を、そのままKY活動の題材にする
借り物の例文と違い、自分の職場の映像なので議論が具体的になります。「この持ち方だと落としたときに足に来る」「この位置だと後ろを通る人が見えない」——現物を前にすると、対策の話まで一気に進みます。

 

拾った危険を、その月で捨てない

この方法にはもう一つ利点があります。拾った危険を手順書に書き足せることです。

 

従来のヒヤリハット報告は、提出され、集計され、掲示され、そして翌月には流れていきます。しかし映像から拾った危険は、その作業のどの場面かがはっきりしているので、手順書の該当する手順の「安全上の注意」として書き足せます。そうすれば、次にその工程に入る人は、最初からその注意を読んだ状態で作業を始めます。今月のネタが、恒久的な手順書の改訂に変わるということです。

 

Diveでの実装

動画手順書システム「Dive」には、この「映像から危険を拾う」工程を助ける機能があります。

スクリーンショット 2026-09-06 163812-png

 

かんたん分析は、動画を1本選ぶだけで使えます。手順書も標準時間も要りません。映像そのものを見て、危なく見えた瞬間を時刻つきで挙げます。挙がるのは2種類で、けがのおそれがある場面(保護具、可動部への手の接近、不安定な姿勢、無理な持ち上げなど)と、不良につながるおそれがある場面(部品の落下や引きずり、面の汚損、明らかな確認の飛ばしなど)です。挙がった箇所からは、その場面の再生位置へ直接飛べます。

 

ここで返ってくるのは合否の結論ではなく、人が確認したほうがよさそうな箇所です。最終的に「これは危険か」を決めるのは安全担当であり、機械ではありません。この機能が肩代わりするのは判断ではなく、10分の映像を最初から最後まで目で追うという、たたき台づくりの手間のほうです。

 

すでに手順書がある工程なら、手順書との比較も使えます。手順書に書かれた作業内容・品質上の注意・安全上の重要事項を基準にして、作業を撮った映像を手順ごとに突き合わせ、手順単位で「そのとおり」と「要確認」を並べます。判定の基準を書いたのは現場の担当者自身なので、何を見るかを機械が推測することはありません。

 

そして拾った危険は、そのままDiveの手順書の該当手順に書き足せます。動画つきの手順書として現場のスマートフォンやタブレットから引けるので、注意事項が「掲示板の紙」ではなく作業する場面の中に置かれます。

 

まとめ

  • ヒヤリハットのネタ切れは、事例の在庫不足ではない。厚生労働省だけでも451件が公開されており、借りられる事例は尽きていない※1
  • 本当の詰まりは、他社の事例を転記しても自分の職場の危険は一つも減らないこと。提出物は埋まるが、現場は変わらない
  • 原因は拾い方にある。ヒヤリハットは記録が残らないため「人の記憶と申告」に依存する。覚えていないものは出せず、本人が危ないと思わなかったものは絶対に出てこない
  • 事例集が積み上がる一方で、休業4日以上の死傷者数は年間13万人台で横ばい。事例を配ることと、その現場の危険が減ることは別の話※2
  • 網を替える方法は、自分の現場の作業を撮ること。映像には、本人が危ないと思わなかった瞬間まで残っている。月1本から始められる
  • 拾った危険は手順書の安全欄に書き足す。今月のネタで終わらせず、恒久的な改訂に変える

 

自分の現場の映像から、危ない箇所を拾う。動画手順書システム「Dive」

 

よくある質問(FAQ)

ヒヤリハットのネタ切れを防ぐには、どうすればよいですか

事例集から探す方法を続ける限り、根本的には解決しません。ネタ切れの原因は事例の在庫不足ではなく、自分の職場の危険を拾う手段が当事者の記憶と申告しかないことにあります。作業を撮影して見返す方法に切り替えると、本人が危険と感じていなかった場面も対象にできます。

 

ヒヤリハットが1件も出てこない工程は、安全と考えてよいですか

安全とは限りません。同じ作業を繰り返すほど動作は当たり前になり、危険として意識に上らなくなります。報告がゼロの工程は、危険がないのではなく誰も危険と感じていない状態である可能性があるため、優先して確認する対象になります。

 

作業を撮影するとき、どのように撮ればよいですか

特別な機材は不要で、スマートフォンで5〜10分程度撮れば十分です。全体を引きで撮るより、手元と作業対象がフレームに入るように撮ると危険が写りやすくなります。撮った映像は、作業者本人以外も一緒に見ることが重要です。

 

AIは危険を自動で判定してくれるのですか

危険かどうかの最終判断は人が行います。動画手順書システムDiveの「かんたん分析」が返すのは合否の結論ではなく、人が確認したほうがよさそうな箇所を時刻つきで挙げたものです。長い映像を最初から最後まで目で追う手間を減らし、確認すべき場面を絞る用途に向いています。

 


参考文献
※1 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例」(全451件、令和7年5月27日時点)
※2 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」(令和8年5月27日公表・確定値)
※3 エピソテック「製造業における作業手順の動画活用に関する実態調査」(2026年)

こちらの記事も見られています