品質保証部門が直面している大きな課題の一つとして”外部監査対応に必要な手順変更の履歴や教育実施記録の整備が後手に回る”ことがあげられます。
原因として考えられるが、製造業において技能継承の取組をしている事業所のうち、技術伝承の取り組みの内容として「ベテラン社員による指導」が圧倒的に主流となっており、導入企業の割合は70.5%と突出しており口頭・非形式的な伝承手段が多くの企業で定着しているという現状です。
一方で、「技術伝承が必要な技術、ノウハウを文書化、データベース化、マニュアル化している」と回答した企業の割合は30.3%に留まり、業務手順を文書化して標準化する文化が十分に根付いていないことがわかります。
出典:「令和5年度ものづくり基盤技術の振興施策」2024年版ものづくり白書(複数回答可のアンケート)
また、監査資料に求められる内容やフォーマットが、日常での現場内OJTや口頭ベースの指導方法とは大きく乖離していることも大きな原因の一つと言えるでしょう。
JISQ9001(ISO 9001)規格7.2項では、業務に必要な「力量(スキル)」を明確にし、教育や評価を通じてその力量を確保するとともに、その証拠を「文書化した情報」として適切に管理することが求められています。
また、これに関連して、「文書化した情報」の作成及び更新と管理についても、規格7.5項に基づき、現場で有効に活用される状態が求められています。
しかし、実際には監査対応を目的として整備されたマニュアルが、日常の業務やOJTの中では活用されておらず、マニュアルは形だけ整っているものの実態と結びついておらず、監査直前になって場当たり的に非効率な方法で対応するという状況が生まれています。
さらに、マニュアルが整備されていたとしても、更新されずに形骸化しているケースが多く、現場の実態と乖離したまま放置されていることが少なくありません。
そのため、外部監査の際には既存のマニュアルを活用できず、改めて資料を一から作成する手間が発生します。
このように”外部監査対応に必要な手順変更の履歴や教育実施記録の整備が後手に回る”という課題は、表面的には「資料がない」「更新されていない」だけのように見えて、実際には現場の教育・伝承文化にまでさかのぼる根深い構造があるのです。
結果として、教育履歴の可視化や、ドキュメントによる手順変更の記録が後回しになるのは当然とも言える状況です。