「審査までに、力量評価表を整えておいてください」——ISO 9001の担当になって、こう頼まれたことはないでしょうか。インターネットでテンプレートを探すと、見つかるのは人事評価のシートや、○や数字を入れるだけのスキルマップが中心です。
マス目に評価を入れる欄はあっても、その評価の根拠、いつ誰が評価したか、教育の効果をどう確かめたかを書く欄がない表は、ISO 9001「7.2 力量」の記録としては心もとないものです。
この記事では、力量評価表に入れておきたい項目、4段階の評価基準の決め方、作り方の5ステップを順に解説します。後半では、そのまま使えるExcelテンプレート(登録不要)を配布しています。
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力量評価表とは|力量管理表・スキルマップとの違い
力量評価表とは、品質に影響する作業ごとに必要な力量(レベル)を決め、一人ひとりが今どのレベルにあるかを、評価の根拠とともに記録する表です。会社によって「力量管理表」「力量表」「スキルマップ」「星取表」とも呼ばれ、実質的には同じものを指すことがほとんどです。
ISO 9001:2015の箇条7.2「力量」が求めているのは、必要な力量を明確にすること(a)、教育・訓練・経験に基づいて力量を備えていることを確実にすること(b)、足りない場合に処置をとってその有効性を評価すること(c)、そして力量の証拠として文書化した情報を保持すること(d)の4つです。JQAは審査の観点として、7.2では力量の証拠となる文書化した情報の存在と内容を確認し、教育・訓練に使ったテキストがあればその内容も確認するとしています※1。
規格は、表の書式を決めていません。必要なのは、この4つに答えられる中身です。なお、ISO 9001は2026年9月に改訂版が発行されています。改訂の要点は ISO 9001:2026改訂の変更点と移行期限 にまとめています。
なぜ「表はあるのに、記録として使えない」のか
原因1: 人事評価の表を流用している
人事評価は、半年や1年の働きぶりを総合して点数にするものです。一方、7.2が見ているのは「この作業を、この人は手順どおりにできるのか」という作業単位の事実です。査定の表をそのまま力量評価表に転用すると、作業ごとの粒度も、根拠を書く欄も足りなくなります。査定にも力量の情報を使いたい場合は、作業×レベルの一覧を「元のデータ」として別に持ち、査定の側がそれを参照する形にすると、両方の目的を満たしやすくなります。
原因2: 評価の根拠と日付が、表の外にある
表に並ぶのが「3」や「○」といった結果だけだと、なぜその評価なのかは教育記録の紙や指導者の記憶に散らばります。審査で「この評価の根拠は」と聞かれてから、記録を探しに行くことになります。
原因3: 評価基準が、人によって読み方の違う言葉で書かれている
「理解している」「習熟している」のような言葉は、評価する人によって基準が揺れます。同じ作業でも、甘い班長と厳しい班長で付くレベルが変わってしまうと、表を集計しても意味のある数字になりません。
原理:評価を「作業」と「観察できる事実」に結びつける
3つの原因に共通する解は、評価をできるだけ観察できる事実に結びつけることです。
1つ目は、評価の単位を作業にそろえることです。手順書1冊(または1工程)を表の1行にすると、評価項目と現物の作業が同じものを指すようになり、「この行の作業は、この手順書のとおりにできるか」を問えるようになります。
2つ目は、レベルを行動で定義することです。「指導を受けながら実施できる」「1人で実施できる」のように見て確かめられる行動で書けば、評価者が違っても同じ結論に近づきます。
3つ目は、根拠を評価の隣に置くことです。いつ、誰が、どの記録を見てそのレベルにしたのか。評価と根拠が同じ場所にあれば、表はそのまま力量の証拠になります。
厚生労働省が公開している「職業能力評価シート」も、職務を遂行するための基準をチェック形式にしたもので、本人と上司がそれぞれチェックし、認識の違いを面談で伝える使い方が示されています※3。基準を言葉で明確にし、評価のずれを見える形にするという考え方は同じです。
データで見る|職業能力評価は「査定」に寄っている
厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」によると、職業能力評価を行っている事業所は54.5%でした(製造業で正社員に行っている割合は56.1%)※2。評価の使い道は、「人事考課(賞与、給与、昇格・降格、異動・配置転換等)の判断基準」が86.2%と突出し、「人材配置の適正化」55.9%、「労働者に必要な能力開発の目標」36.7%と続きます。「技能継承のための手段」は21.1%にとどまりました※2。
評価そのものは半数の事業所で行われていても、その多くは査定のための評価で、現場の作業を教え、受け継ぐための評価にはなっていない、という姿が読み取れます。力量評価表が「人事の表」に引っ張られやすいのは、このためです。
同じ調査では、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所が80.1%にのぼり、問題点の1位は「指導する人材が不足している」(59.5%)、3位は「人材育成を行う時間がない」(45.5%)でした※2。表を更新する役目を担える人も時間も、もともと足りていません。だからこそ、作る段階で根拠が自然に集まり、更新しやすい形にしておく必要があります。
力量評価表に入れておきたい9つの項目
7.2の4つの要求に答えるために、表に入れておきたい項目は次のとおりです。下で配布しているテンプレートも、この構成になっています。
| 項目 |
書く内容 |
7.2との対応 |
| 1. カテゴリ・作業(スキル) |
品質に影響する作業。手順書1冊(1工程)を1行にするのが目安 |
a |
| 2. 関連する手順書 |
その作業の正しいやり方を示す手順書の文書番号と版 |
a・d |
| 3. 目標レベル・目標人数 |
工程を回すのに、どのレベルの人が何人要るか |
a |
| 4. 各人の現在のレベル |
1〜4の数字。その作業を担当しない人は空欄 |
b |
| 5. 評価の根拠 |
観察・実施の記録・テスト・資格のどれで、何を見て判断したか |
b・d |
| 6. 評価日・評価者 |
いつ、誰が評価したか。次回の評価予定もあわせて |
d |
| 7. 処置の計画 |
目標に届かない人へのOJT・教育・配置などの計画と担当 |
c |
| 8. 有効性の確認 |
処置の後、できるようになったかを何で確かめたか、その結果 |
c |
| 9. 必要な資格と有効期限 |
法定資格・技能講習・社内認定など、その作業に就くための資格 |
b(8.5.1の力量を備えた人の任命とも関わる) |
1〜4を1枚の一覧にまとめ、5〜8は評価や教育のたびに1行ずつ足す記録に分けると、一覧は見やすいまま、根拠はいくらでも積み上げられます。
9の資格は、有資格者一覧表として別に持つと管理しやすくなります。作り方とテンプレートは【Excelテンプレート付き】有資格者一覧表の作り方で解説しています。
評価基準の決め方|4段階で「できること」を書く
レベルは、見て確かめられる行動で定義します。迷ったら、次の4段階から始めて、自社の現場の言葉に合わせて直すのがおすすめです。
| レベル |
定義 |
確かめ方の例 |
| 4 |
指導をできる |
他の人に手順・コツ・注意点を教え、その人が手順どおりにできるようになった |
| 3 |
1人で実施できる |
手順書どおりに最後まで1人で実施し、確認のポイントで誤りがない(異常時の連絡も含む) |
| 2 |
指導を受けながら実施できる |
指導者が付けば、手順どおりに実施できる |
| 1 |
補助をできる |
指示された一部の作業や、準備・片付けを補助できる |
段階を4つにしておくと、真ん中を選んで判断を保留する逃げ道が生まれにくくなります。目標レベルは、その作業を任せたい人には「3(1人で実施できる)」、教える役も担ってほしい人には「4」を置く、という決め方が分かりやすいでしょう。その作業を担当しない人には数字を入れず、空欄(評価の対象外)にしておくと、目標人数の集計がぶれません。
評価の方法も、作業の性質に合わせて決めておきます。
- 観察:評価者が実際の作業を見て、手順書の項目どおりかを確かめる。見た日・見た人・手順書の版を残す
- 実施の記録:手順書を最後まで1人で実施した記録や、確認の設問の結果で確かめる。閲覧しただけの記録は根拠にしない
- テスト:筆記・口頭・実技で確かめる。テストの版と合格基準を残す
- 資格:免許・技能講習・社内認定の保有で確かめる。有効期限を必ず見る
力量評価表の作り方|5ステップ
ステップ1: 対象の作業を洗い出す
品質に影響する作業から並べます。手順書の一覧を下敷きにすると、漏れが少なく、評価項目と手順書が1対1で対応します。手順書がまだ無い作業は、表を作るのと同時に手順書づくりの候補として印を付けておきます。手順書の種類の使い分けは作業手順書・作業標準書・作業要領書の違いを参考にしてください。
ステップ2: 作業ごとに目標レベルと目標人数を決める
工程を止めずに回すには、その作業を1人でできる人が何人要るかを考えます。休み・交替勤務・急な欠員を見込むと、目標人数は「今の担当者の数」より多くなるのが普通です。目標人数との差が、そのまま育成と多能工化の計画になります。進め方は多能工化の進め方で解説しています。
ステップ3: 今の力量を評価し、根拠を残す
一覧に数字を入れるのと同時に、評価の記録に「評価日・氏名・作業・評価前と評価後のレベル・評価の方法・根拠・評価者」を1行ずつ残します。最初の評価は、班長や指導者が担当者ごとに付け、品質管理の担当者が全体の甘い・辛いをそろえると、ばらつきが減ります。
ステップ4: 足りない所に処置を計画し、効果を確かめる
目標に届かない作業には、誰に・何を・いつまでに、を決めて処置を計画します。7.2が求めているのは処置の実施だけでなく、その有効性の評価です。研修を受けた後のアンケートではなく、「指導者なしで手順どおりに3回実施できた」のように、できるようになった事実で確かめて記録します。
ステップ5: 見直しのきっかけと周期を決める
規格は見直しの頻度を決めていないので、自社で決めます。年に1回などの定期の見直しに加えて、異動・手順書の改訂・新しい設備の導入・不具合の発生といった、力量の前提が変わる出来事を見直しのきっかけにしておくと、表が実態から離れにくくなります。
Excelテンプレートのダウンロード(登録不要)
ここまでの項目と評価基準を、そのまま使えるExcelにまとめました。登録やメールアドレスの入力は不要です。様式は自由に改変してお使いください。
- はじめに:使い方と、ISO 9001「7.2 力量」の各要求とシートの対応
- 評価基準:レベル1〜4の定義と、評価の方法の例
- スキルマップ:力量評価表の本体(作業×人)。目標レベルを満たした人数を自動で数え、目標人数に届かない行を色で知らせます
- 評価記録:いつ・誰が・何を根拠に評価したか(力量の証拠)
- 教育と有効性:足りない力量への処置と、その効果を確かめた記録
- 資格台帳:作業に必要な資格と、取得日・有効期限・次回再教育
力量評価表テンプレート(Excel)をダウンロード
灰色の斜体の行は記入例です(社名・氏名・作業名はすべて架空)。使うときは消してください。自社の様式がある場合は、そちらを優先してください。
作った後|更新が止まらないようにする
力量評価表は、作った日がいちばん正確です。工程は変わり、人は入れ替わり、教育は毎月進みます。表を誰かが転記し続ける前提のままだと、忙しい時期に必ず更新が止まります。
止まりにくくするコツは、評価の根拠が日々の作業の中で自然に記録される形にしておくことです。手順書を、開いた・最後まで実施した・確認の設問に答えた、という記録が残る形で現場に置けば、評価記録の「根拠」の欄はあとから探すものではなく、すでにあるものになります。更新が止まる構造的な原因と、現場の実績から記録を残す方法は力量管理表が更新されないのはなぜかで詳しく解説しています。
Diveでの実装|実績で育つ力量表
動画手順書システム「Dive」は、作業を撮るだけでAIが手順ごとに区切り、動画と文章と設問の手順書にします。その手順書と、力量表(スキルマップ)・教育のコース・資格の台帳がひとつの中でつながっています。
- 実績で育つ:スキルに手順書を紐づけると、紐づけた手順書をひとりでやり切った(最後まで実施し、確認の設問で誤りがない)実績で、力量表のレベルが自動で上がります。コースの修了・資格の取得も同じです。閲覧しただけでは上がらず、自動では下げません。
- 履歴が残る:上がったレベルは、評価者が「Dive(自動評価)」として履歴に残るので、あとから誰が評価したのかを確認できます。監査を重視する場合は、レベルは動かさず育成記録の起票だけにして、人が確定する運用も選べます。評価はその時点の状態として保存・承認でき、Excelでも保管できます。
- 資格も同じ場所で:取得日から有効期限と次回再教育日を計算し、期限が近づくとお知らせします。手順書に必要な資格を紐づけると、未取得の人が開いたときに警告します。
- テンプレートと同じ物差し:上のテンプレートの4段階は、Diveのスキルマップが最初に用意している評価基準(チームで書き換えられます)と同じ言葉です。「スキルマップ」シートの列名(カテゴリ・サブカテゴリ・スキル・説明・目標レベル・目標人数)も、Diveのスキル項目の取り込みで読み取れる名前にしてあります。取り込める列と手順は、ヘルプセンターの既存の力量管理表(Excel)をDiveに移すをご覧ください。
実際に、ISO 9001を取得した株式会社カスタム電子では、それまでExcelで別々に管理していたスキルマップと教育記録を、規程・手順書とあわせてDiveに一本化しています。機能ごとに利用できるプランは料金プランのページでご確認ください。
まとめ
- 力量評価表は、作業ごとの必要な力量と各人のレベルを、評価の根拠とともに残す表。力量管理表・スキルマップとも呼ばれる。
- ISO 9001「7.2 力量」に答えるには、一覧(作業・目標・レベル)に加えて、評価記録(評価日・評価者・根拠)と、処置とその有効性の記録が要る。
- 職業能力評価の使い道は人事考課が86.2%、技能継承の手段は21.1%(厚労省 令和7年度調査)。査定の表を流用すると、作業単位の根拠が抜けやすい。
- 評価は「作業」と「観察できる事実」に結びつける。手順書1冊=1行、レベルは行動で4段階、根拠は評価の隣に。
- 作った後は、根拠が日々の作業から自然に集まる形にしておくと、更新が止まりにくい。
手順書をやり切った実績で、力量表が育つ——動画手順書システム「Dive」
よくある質問(FAQ)
力量評価表とは何ですか?
品質に影響する作業ごとに必要な力量(レベル)を決め、一人ひとりが今どのレベルにあるかを、評価の根拠とともに記録する表です。会社によって力量管理表・力量表・スキルマップ・星取表とも呼ばれ、ISO 9001の箇条7.2「力量」の記録として使われます。
力量評価表に決まった書式はありますか?
規格は書式を決めていません。必要な力量の明確化、力量を備えていることの確実化、処置とその有効性の評価、力量の証拠の保持という7.2の4つに答えられれば、形式は自由です。作業・関連する手順書・目標レベル・各人のレベル・評価の根拠・評価日と評価者・処置・有効性の確認・資格の9項目をそろえると答えやすくなります。
評価のレベルは何段階がよいですか?
決まりはありませんが、「補助をできる」「指導を受けながら実施できる」「1人で実施できる」「指導をできる」の4段階が使いやすい形です。見て確かめられる行動で定義すると、評価者による揺れが減ります。その作業を担当しない人は数字を入れず、評価の対象外として空欄にしておきます。
力量評価表は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?
規格は頻度を決めていないため、自社で決めます。年に1回などの定期の見直しに加えて、異動・手順書の改訂・新しい設備の導入・不具合の発生といった、力量の前提が変わる出来事をきっかけに見直すと、表が実態から離れにくくなります。
参考文献
※1 日本品質保証機構(JQA)情報誌 ISO NETWORK Vol.27「特集1:2015年版のISO 9001を読む」
※2 厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(調査結果の概要 図36・図54・図56・図57)
※3 厚生労働省「職業能力評価シートについて」