「製造業で動画マニュアルを入れたい」という話は、たいてい途中で同じ場所につまずきます。すでにある作業標準書、ISOの文書体系、取引先に提出しているExcelの帳票を、どうするのか。
動画にすれば現場が楽になるのは分かる。ただ、監査で見せる書類は今までどおり必要だし、様式は自社の都合だけでは変えられない。結局「動画は動画で作り、書類は書類で作る」という二重管理の絵が見えて、検討が止まる——このパターンです。
この記事では、既存の手順書と様式を捨てないことを前提に、製造業で動画マニュアルを導入する進め方を整理します。なぜ必要になっているのかという背景から、現場で実際に使われる状態に持っていくまでを、外部の統計と当社の調査データで確認しながら順に見ていきます。
動画が「見られない」を解決!現場支援型の動画手順書システム「Dive」
製造業で動画マニュアルが必要になっている理由は「教える人が足りない」
動画マニュアルの話は「分かりやすいから」という切り口で語られがちですが、製造業で導入が進んでいる理由はもう少し切実です。教える側の人手が足りていないことが土台にあります。
厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」(7,218事業所が回答)では、能力開発や人材育成に関して何らかの問題があるとする事業所が79.9%にのぼりました※1。一方で、計画的なOJTを実施した事業所は正社員に対して61.1%です※1。つまり、育てなければならないという認識は広く共有されているのに、計画的に教える体制まで持てている事業所は3社に2社に届いていない、という状態です。
この差を埋める方法として、教える行為そのものを人から切り離す発想が出てきます。ベテランが毎回横について説明するのではなく、作業のやり方を記録して、必要な人が必要なときに参照できるようにする。動画マニュアルが製造業で検討される理由は、ここにあります。
逆に言えば、「動画があるのに結局ベテランが呼ばれている」なら、導入の目的は達成されていないということになります。この記事の後半で、そこが分かれる条件をデータで見ます。
それでも、既存の手順書と様式は捨てられない
ここで最初の壁に戻ります。動画を入れるとしても、既存の書類はなくなりません。
製造業の現場帳票を管理している方を対象にした2025年の調査(従業員50名以上、102名回答)では、現場帳票の運用方法は紙が20.6%、Excelが49.0%で、合わせて69.6%でした※2。注目したいのは、この比率が2022年の同調査(63.7%)と比べて5.9ポイント増えている点です※2。システム化が進んで紙とExcelが減っていく、という直感とは逆の動きが出ています。
製造業で様式が残り続ける理由ははっきりしています。
- 認証・監査で求められる:ISOの文書体系に組み込まれている手順書は、文書番号や改訂履歴、承認欄まで含めて要求事項の一部です。中身だけ別の場所に移すわけにはいきません。
- 取引先から指定される:提出する帳票の様式が発注元で決まっている場合、自社の都合で作り替えられません。
- 社内の運用が様式に紐づいている:印刷して掲示する、ファイルに綴じて保管する、承認印を押す——といった運用が、その様式を前提に組まれています。
つまり「動画マニュアルに置き換える」という前提そのものが、製造業では最初から成立しにくい。ここを直視しないまま導入すると、動画は動画で作り、書類は書類で作り直すという二重管理が始まり、現場の負担はむしろ増えます。
手順書の様式が現場に合わないまま運用されている構造については、手順書テンプレートが埋まらない本当の理由でも整理しています。
原理:置き換えようとすると失敗し、役割を分けると回る
ではどう考えればよいか。書類と動画は、そもそも使われる場面が違います。ここを分けると、話が一気に整理されます。
| |
既存の手順書・帳票 |
動画手順書 |
| 使われる場面 |
提出・保管・監査・承認 |
作業中の参照・教育 |
| 読む人 |
審査員・発注元・管理部門 |
その作業をする本人 |
| 求められること |
様式が守られていること |
探している手順にすぐ届くこと |
役割が違うので、片方がもう片方を置き換えることはできません。必要なのは同じ中身を、それぞれの場面に合った形で出せることです。
なぜ「動画を足すだけ」では使われないのか
もう一つ、原理の話をします。作業を最初から最後まで撮った通し動画を置いても、現場では使われにくくなります。理由は探索コストです。
知りたいのは「この工程のこの一手」だけなのに、通し動画では目的の箇所がどこにあるか分かりません。頭出しして、行き過ぎて、戻って——を繰り返すうちに、近くにいる先輩に聞いたほうが速いという判断になります。人に聞く行為は数十秒で答えが返ってくるので、探索コストの勝負で動画が負けるわけです。
逆に、動画が手順ごとに区切られていて、各手順にテキストで「何をするか」「どこに注意するか」が書かれていれば、目的の手順に直接たどり着けます。この状態になって初めて、動画は「聞く」の代わりになります。動画手順書と動画マニュアルの違いは、まさにこの構造の差です。
データ:現場は「作業中」に引いている
ここまでの原理が実際のデータでどう見えるかを確認します。
動画を入れても、87%が「結局聞いている」
当社が製造業の現場・管理層841名に行った調査では、動画を導入している現場でも87%が「動画を見ても先輩・同僚に聞くことがある」と回答しました※3。導入すれば質問が減る、とはなっていません。前節の探索コストの話が、そのまま数字に出ています。
手順が分からない時間は、1人あたり年間およそ70時間
別の調査では、製造現場500名に「手順が分からず聞く・探すことに使う時間」を尋ねました。回答分布から保守的に試算すると、1日あたり約18分、1人あたり年間およそ70時間になります※4。聞かれた側が作業を止めて対応する時間は、これに加算されます。
閲覧の81%は業務時間のど真ん中
意識調査は「どう使うつもりか」を映しますが、実際の行動は本人も正確には言語化できません。そこで、動画手順書が実際に開かれた時刻を記録したログを見ます。
動画手順書システム「Dive」の実利用ログ43,406件(非デモ268チーム、2026年6月実測)を時間帯別に集計すると、業務時間(9〜17時)の閲覧が81%を占めました※5。朝(5〜9時)は9%、夜(18時以降)は8%です。
これは、現場が動画手順書を「事前に見て覚えるもの」ではなく「作業しながら引くもの」として使っていることを示しています。研修用の教材を作るつもりで設計すると、実際の使われ方とずれます。
既存の標準類を残したまま進める4ステップ
ここまでを踏まえた現実的な進め方です。既存の作業標準書やExcel様式を作り替えないまま始められます。
ステップ1:工程を1つだけ選ぶ
全社展開から始めないでください。質問が集中している工程、または担当できる人が1人しかいない工程を1つ選びます。効果が測りやすく、現場に見せて判断できます。
ステップ2:作業を通しで撮り、手順に分ける
撮影は1回で構いません。重要なのはこのあと、通し動画を手順ごとのステップに分けることです。前述のとおり、ここを飛ばすと使われません。分割を手作業でやると動画の本数だけ工数が発生するため、自動化できるかどうかが導入の負担を大きく左右します。
ステップ3:作業中に開ける導線をつくる
設備や工程にQRコードを貼る、共有端末に置くなど、手を動かしている場所から数秒で開ける状態にします。パソコンを取りに戻る必要がある時点で、聞くほうが速くなります。
ステップ4:提出用の書類は既存の様式のまま出す
ここが二重管理を防ぐ分かれ目です。現場が見るものと、提出・保管するものを、同じ中身から作れる状態にします。動画側で手順を整理したら、それをそのまま自社の様式に流し込めれば、書類を別に作り直す作業がなくなります。
ツールを選ぶ際に出力先をどう見るかは、マニュアル作成ツールの出力形式を比較で4段階に整理しています。
事例:ISOの文書管理をExcelから移した製造業
実際に既存の文書体系を保ったまま移行した例として、ハーネス加工・制御盤の組立配線などを手がける株式会社カスタム電子(従業員178名)のケースがあります。同社は2024年4月にISO9001:2015の認証を取得し、拠点ごとにばらついていた作業標準を統合しました。
ただし取得後も、監査のたびに資料を探す負担が残りました。そこで動画手順書に移し、ISO文書と教育記録を一本化しています。導入はCoreプランからのスモールスタートで、現在はEnterpriseプランです。
詳細はISOの文書管理をExcelから動画手順書へ|株式会社カスタム電子 導入事例をご覧ください。
Diveでの実装
現場支援型の動画手順書システム「Dive」は、ここまで挙げた条件を1つの製品で満たすように作られています。
- 手順への自動分割:作業動画をアップロードすると、生成AIが映像を解析して手順ステップに分割し、各ステップに作業内容・コツ・注意事項・安全上の重要事項を整理します(特許技術)。実写の作業動画でも、パソコン画面を録画した映像でも同じ処理が動きます。
- 自社の様式のまま書き出し:あらかじめ自社のExcel・Word・PowerPointの様式ファイルを登録しておくと、その体裁のまま出力できます。行を増減させない設計のため、数式・印刷設定・マクロがずれません。
- 作業中に引ける導線:QRコードやスマートフォンから手順単位で開けます。ネットワークが届かない場所ではオフライン再生も使えます。
- 多言語:自動翻訳に対応しており、外国籍スタッフのいる現場でも同じ手順書を共有できます。
作成した手順書は、契約が終了しても消えません。無料のFreeプランで引き続き参照でき、必要になったときに有償プランを再開できます。また、お預かりした動画がAIモデルの学習に使われることはありません。
まとめ
- 製造業で動画マニュアルが必要になっている土台は、教える側の人手不足にある。事業所の79.9%が人材育成に何らかの問題を抱えている※1。
- 一方で既存の様式は減っていない。現場帳票は紙とExcelで69.6%を占め、2022年比で5.9ポイント増えている※2。
- 書類と動画は使われる場面が違うため、置き換えではなく役割分担で考える。
- 通し動画のままでは探索コストで「人に聞く」に負ける。手順ごとに分けて初めて代替になる。
- 動画を入れても87%が「結局聞く」※3。手順が分からない時間は1人あたり年間約70時間※4。
- 実際の閲覧の81%は業務時間中※5。研修教材ではなく作業中の参照として設計する。
- 進め方は、工程を1つ選ぶ→撮って手順に分ける→作業中に開ける導線→提出用は既存様式のまま出す、の4ステップ。
既存の様式はそのままに。現場支援型の動画手順書システム「Dive」
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よくある質問(FAQ)
製造業で動画マニュアルを導入すると、既存の作業標準書は作り直しになりますか?
必ずしも作り直しにはなりません。既存の手順書や帳票は提出・保管・監査のために様式が決まっている一方、動画手順書は作業中に参照するためのものです。役割が違うため、片方でもう片方を置き換えるのではなく、同じ中身を場面ごとに適した形で出せるようにするのが現実的です。登録した自社の様式のまま書き出せる仕組みであれば、書類を別に作り直す工程をなくせます。
動画マニュアルを用意したのに現場が見てくれないのはなぜですか?
作業を最初から最後まで撮った通し動画のままだと、知りたい一手がどこにあるか分からず、頭出しに時間がかかるためです。数十秒で答えが返ってくる「先輩に聞く」と比べて探索コストで負けます。手順ごとにステップへ分割し、各ステップに作業内容と注意点をテキストで添えて、目的の手順へ直接たどり着ける状態にすると使われるようになります。
現場は動画手順書をいつ見ているのですか?
実際の利用ログでは、業務時間(9〜17時)の閲覧が81%を占めました。朝は9%、夜は8%です。事前学習の教材としてではなく、作業をしながらその場で引く使われ方が中心になります。したがって、作業位置から数秒で開ける導線(QRコードや共有端末など)を用意できているかが、使われるかどうかを大きく左右します。
どの工程から始めるとよいですか?
質問が集中している工程か、担当できる人が1人しかいない工程を1つ選ぶことをお勧めします。全社展開から始めると効果の測定が難しく、現場の負担も一度に大きくなります。1工程であれば撮影から現場での参照までを短期間で試せるため、質問の減り方を見て次に広げる範囲を判断できます。
参考文献
※1 厚生労働省「令和6年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(2025年)※事業所調査 7,218事業所、令和6年10月1日現在の状況
※2 現場帳票研究所「【2025年版調査】製造業の現場帳票に関する実態調査」(2025年)※製造業(従業員数50名以上)で現場帳票を管理している方102名、2025年4月調査
※3 エピソテック株式会社「製造業841名 動画活用実態調査」(2026年)
※4 エピソテック株式会社「製造現場500名 手順の分からなさに関する調査」(2026年)※各区分の中央値で加重平均した保守的試算
※5 エピソテック株式会社「動画手順書 実利用ログ分析(43,406件・非デモ268チーム)」(2026年6月実測)